ダンジョンで示すシナリオ構造三種の例

先に進む前に「減点方式」「加点方式」「分岐方式」といった三種のシナリオ構造の例を示しておくこととします。同じダンジョンの扱いが各方式でどう変わるか、という試みです。例によって技能名は「クトゥルフ神話TRPG」のものを用います。

まず設定。盗賊のアジトとなっているダンジョン。洞窟入口に見張りの姿は無く、入っていくと10m先に小部屋がある。不用意に入ると天井が崩れ(「目星」技能判定で気付く)、瀕死の重傷(相応のダメージ)を被った上、盗賊に気付かれる。実は入口から5mほどの地点に隠し扉(「追跡」技能判定で気付く)があり、盗賊はその先にいる…とします。

さて、宿命に導かれてプレイヤーキャラクター(PC)たちが盗賊退治にやってきました。まず「隠し扉を発見し、盗賊の居場所に向う」のが「あるべき展開」とします。

極端な「減点方式」のゲームマスター(GM)は、プレイヤーが「足跡を調べる」と言えば「追跡」技能判定をさせますが、言わなければさせません。判定に成功すれば「足跡が途中で消えている」と告げますが、失敗したなら「特に気になるところは無い」でお終い。そして「目星」技能判定をすると言わずに小部屋に入れば、迷い無くトラップを発動させます。即座に現れた盗賊たちは生き残ったPCたちを全力で血祭にあげることでしょう。ゲームエンド!(見張りがいなかった時点でトラップを警戒して当然だろう?)

慈愛に満ちた「減点方式」のGMは、プレイヤーが何も言わなくとも「追跡」技能判定をさせます。失敗したら、小部屋の入口でトラップに気付くための「目星」技能判定を再度させるでしょう。追加で「幸運」判定までさせるかも知れません(何か嫌な予感がする)。けれど、それでも小部屋に入るなら、後は同じです。トラップと盗賊がPCを全滅させられるか否かは、運次第です。

極端な「加点方式」のGMは…そもそも死ぬ危険性のあるトラップなど仕掛けません。隠し扉は勝手に開くかも知れませんし、それを無視して小部屋に直進したとしてもトラップはPCが逃げられるタイミングで発動、ノコノコ出てきた盗賊のお陰で進路もバレバレ、というところでしょうか。後はマヌケな盗賊とのギャグプレイが待っています。

適度な「加点方式」のGMは、通路に入るや「追跡」技能判定、失敗しても「足跡が途中で消えている」ことが分かり、成功すれば「足跡は壁に消えているようだ」「足跡の数は何人くらい」などの追加情報が得られます。無視して小部屋まで言ったなら、入ろうとするのを押し留めて「目星」技能判定。失敗しても「天井が崩れてきそうだ」、成功すれば「何者かが仕掛けたトラップ」「他に入口があるのでは無いか?」と問われます。それでも分からず、帰ろうとするならば、正しい道はこちらとばかりに盗賊が登場するでしょう。同行したNPCが勝手に気付くというのもアリです。

以上の対処は皆異なって見えるでしょうが、PCに「あるべき展開から外れないようにさせる」「余計なことはさせない」という点では同様です。

一方、「分岐方式」ではどうでしょうか。PCは結果的に盗賊退治に来たものとします。

取りあえずプレイヤーのやりたい通りにさせる点では「減点方式」に似ています。違うのは、判定をしなかった時や失敗した時に何が起こるかを事前にある程度考えていることで、その場合には「加点方式」に似た展開(盗賊が自ら出てくるなど)もありえます。判定成功ならPCが奇襲、失敗なら逆に奇襲を受ける、といった格差は生じるでしょうが。

更に手馴れた「分岐方式」のGMは、もっと他の可能性をも想定しておくかも知れません。「焚火で盗賊を燻し出そうとする」「入口を破壊して盗賊を生き埋めにする」「やっぱり町に帰る」など、ダンジョン自体を無視した行動に出た場合も考えておくわけです。それでも想定外となる行動はありえます(盗賊の一味に加わるなど)が、アドリブとポーカーフェイスで対処するでしょう。

さて、まったく想定外の行動をプレイヤーが言い出した時、「分岐方式」以外のGMはどう対処するでしょうか。「減点方式」ならその行動は何の利益も生まずに終了する(雨が降ってきて火は消えてしまった)か、悪ければPCの命で贖わされるかも知れません(煙の向こうから矢が飛んできて避けられない)。「加点方式」でも別の形で邪魔されるでしょう。例えば、焚火に火が付く前に盗賊が現れ、正しい道が示されるなど(無視すれば追加で雨が降るでしょう)。

どれにしても、参加者同士の嗜好や心構えが合っていれば、素晴らしく楽しいプレイとなるでしょう。逆にそれが違っていたなら、悶絶間違いありません。