時空の表現法三種

言うまでもなく、プレイ参加者(プレイヤーとゲームマスター)にとっての時間・空間と、それぞれが受け持つキャラクターにとっての時間・空間とは、全くの別物です。ここでは、キャラクターにとっての時空をゲームプレイ上どのように表現するか、その三つの方法について考えてみます。

ひとつめの表現法は、時間単位と空間単位によってキャラクターの現在位置を示すものです。時間単位には「時/分/秒」の他「ターン」「ラウンド」などが、空間(距離)単位としては「メートル/キロメートル」「フィート/マイル」などがあります。これらは連続する概念として常に記録されることになります。初期のダンジョン探索シナリオで見られた「通常速度で○○フィート移動したから△△ターン経過」などの表現が代表例です。

長所は、時空が厳密に管理されるためゲームマスターにとってもプレイヤーにとっても公正で、またリアリティや、状況によってはスリルも素晴らしく豊かであることです。例えば「40ターン後に崩れるダンジョンに入って人質を助け出す」といった状況を想像してもらえればご理解いただけるのではないでしょうか。短所は、より緩やかな時間、より広大な空間においては、あまりに冗長で、管理が面倒になるという点です。捨て難い長所と、短所の解消のため、多くのゲームシステムでは公正さやスリルを求める戦闘時にのみこれを採用しています。

ふたつめの表現法は、連続する時空の一部を「場面」という概念として抜き出すものです。「ある時のある場所」という形式で言い表されるため「時空上の場面」と言っても良いでしょう。例えば「○月○日○時頃の○○駅前」「日曜昼下がりの繁華街」「翌朝、○○の家にて」など。「場面」内での細かな時間や空間の変化は、大抵は大雑把に扱われます。「場面」と「場面」との間の時間的・空間的な間隔は省略されますが、無くなったわけではありませんから、プレイヤーが希望すればその間隔を利用することもできます。

長所は、何といっても時空の管理が楽なことです。そして「場面」という概念は内容を把握し易いため、続く「場面」を(ゲームマスターのみならず)プレイヤーでも思いつくことができます。「昼頃の○○駅」の次は「数分後の△△市行きの特急電車の中」とも「駅前の喫茶店で1時間後」ともなりえ、それを決めるのもしばしばプレイヤーの判断=PCの行動となります。短所として、管理が大雑把過ぎてリアリティやスリルが減少したり、恣意的判断から不公正感が生まれる怖れがあります。また、「場面」内での行動を引き伸ばした末にプレイ時間が延びたり、「場面」間での移動可否などにおいて意見対立が起こることもあります。

みっつめの表現法は、シナリオ進行上必要な「場面」が順に示されるものです。FEAR社製RPGの幾つかで採用されている「シーン制」がこれに当たります。言わば「プロット上の場面」であって、「場面」という概念が次々示される点は一見ふたつめと似ていますが、こちらでは「場面」と「場面」の間隔は原則として存在しません。例えば「NPCからの電話を受ける場面」の次が「翌日、そのNPCの家に着いた場面」であった場合、その間の数時間にキャラクターが行動することは必ずしも許されません。「場面」の間に時間的・空間的間隔が本来無いためで、もしゲームマスターがそれを許すとすれば、PCの行動が時間的に可能だからではなく、プロット上有益と判断された場合のみです。

長所は、時空の管理が楽なことに加え、スムーズなシナリオプレイを成立させやすい点です。どのような「場面」が現れるかがプロット通りに予定されているため、予想外の展開による進行の混乱や時間超過などを最低限に抑えることができます。短所は、リアリティや公正感が不足する恐れの他、「時空上の場面」と勘違いしたプレイヤーと衝突する可能性があります。時間差や空間差を活かしたプレイが「プロット通りの展開やスムーズな進行を乱す」と判断すればゲームマスターはそれを認めませんが、明確な理由を示すことは難しいためです。

以上三者を、空間管理について例示してみましょう。ひとつめは、地図の上で定規で移動距離を計りながら現在地を示す方法。ふたつめは、地図の上を指差して、ここまで来たと言う方法。みっつめは、地図ではなく紙芝居の絵を出して説明する方法です。ふたつめで用いる「場面」がひとつめの延長線上にあるのに対し、みっつめでは根本的に異なる革命的な発想の転換があります。

現在のゲームシステムはほぼ皆、ひとつめの表現法を戦闘時のみに「戦闘ラウンド」などとして用いています。要するに「時空上の場面+戦闘ラウンド」と「プロット上の場面+戦闘ラウンド」の二つの潮流があるわけです。前者は「プレイヤー主導」のプレイ、後者は「ゲームマスター主導」のプレイに向いています。あるいは後者は端から「ゲームマスター主導」のために開発された表現法なのかも知れません。

使用するゲームシステムがどちらを採用しているにせよ、「時空上の場面」を「プロット上の場面」に変換するのも、その逆も、それほど難しい作業ではありません。遊び手が遊びたいように取捨選択すれば良いでしょう。