ゴールデンルールとSW2.0

ここでは、『ソードワールド2.0』(SW2.0)の「最初に憶える大切なルール」と、FEAR社の「ゴールデンルール」との、二種類の「遊び方」を比較します。

第一に、ゲームマスター主導」のゲームプレイを指向している点は、両者に共通します。

どのような場合であれ、最終的な決定はGMが行います。なるべくプレイヤーに不利益が発生しないよう、公正に裁決しましょう。(最初に憶える大切なルール)

GMは、そのような事態が発生した際に、あるいはルールの運用に迷う場合に、どのように裁定するかを決定する最終的な権利を持つ。(ゴールデンルール)

プレイヤーはGMの指示に従ってください。(中略)最終的にはGMの決定に従わなければなりません。(最初に憶える大切なルール)

プレイヤーもGMの裁定に異を唱え、ゲームの進行を停滞させてはならない。(ゴールデンルール)

「ゲームマスター主導」とは、「ゲームマスターが決め、プレイヤーはそれに従う」という形式でゲームプレイを進めていく遊び方です。プレイヤーからの発案は、ゲームマスターが許可した場合のみ有効となります。ゲームプレイはどのように展開すべきか、が事前に決まっているシナリオに向いています。

ついでにいうと、ゲームプレイの目的を「参加者全員で物語を創る」こと、としているのも共通点です。「ゲームマスター主導」で「物語を創る」とは大抵、ゲームマスターが決めておいた物語の成立に、プレイヤーが協力することです。そうでなく「物語を創る」のは、「最初に憶える大切なルール」や「ゴールデンルール」では、ほぼ不可能でしょう。

第二に、ゲームマスターとルールシステムとの上下関係(ヒエラルキー)は、両者で異なっています。

ゲーム中、どのルールを用いて判定を行うかは、GMが決定します。もしルールブック内の記述だけでは対応できない状況となった場合、GMが判断して裁定を行ってください。(最初に憶える大切なルール)

それでもルールに記述されていない事態は発生する。GMは、そのような事態が発生した際に、あるいはルールの運用に迷う場合に、どのように裁定するかを決定するかを決定する最終的な権利を持つ。それにともない、GMはルールを作成、および変更、さらには存在するルールを適用しなくともよい。(ゴールデンルール)

GMが許可していないのにプレイヤーがサイコロを振った場合、GMはその結果を却下したり振りなおさせて構いません。(最初に憶える大切なルール)

GMはみずからが確認していない、あるいは許可していないプレイヤーの判定やダイスロールの結果を棄却し、プレイヤーにダイスロールを行わせることができる。また、GMはみずからが行なう(たとえばNPCの)判定やダイスロールの結果を、ダイスを振らずに自由に決定できる。(ゴールデンルール)

「ゴールデンルール」では、「ルールを作成、および変更、さらには存在するルールを適用しなくともよい」ことと「みずからが行なう判定やダイスロールの結果を、ダイスを振らずに自由に決定できる」こととが、GMの権限として明言されています。ゲームマスターには、ルールシステムやその運用結果を変更する権限が与えられているのです。

対する「最初に憶える大切なルール」では、「どのルールを用いて判定を行うか」を決め、「もしルールブック内の記述だけでは対応できない状況となった場合」の裁定権が与えられるに過ぎません。ルールブックに記述されたルールシステムを無視・変更する権限は、プレイヤーと同様、ゲームマスターにも与えられていないことになります。

つまり、「最初に憶える大切なルール」に組み込まれたヒエラルキーは、上位から順に次のようになります。

  1. ルールシステム(と世界設定)
  2. ゲームマスター(とシナリオ)
  3. プレイヤー(とキャラクター)

「ゴールデンルール」のヒエラルキーが「極端なゲームマスター主導」を示すのに対し、「最初に憶える大切なルール」のそれは「極端でないゲームマスター主導」「普通のゲームマスター主導」となっています。

第三に、同じ「ゲームマスター主導」であっても、シナリオ運用のための技術は、異なったものが組み込まれています。

キャラクターの行動によってシナリオで想定していない事態に陥ったり、進行から脱線してしまったとき。あるいはプレイヤーが手詰まりになって進行が停止してしまったとき、GMは独自の判断でセッションを進行させ、状況を変化させたり、ゲーム内の時間を進めても構いません。(最初に憶える大切なルール)

「最初に憶える大切なルール」では、プレイヤーが決めたキャラクターの行動によって、シナリオの進行が脱線したり停滞したりする可能性が示されています。そのような状況を解消するために、ゲームマスターの「強権」が認められている、と考えられます。ただし、その「強権」はルールシステムに抵触しない範囲に限られており、具体的な判断はゲームマスターの力量に任されていますから、ゲームマスターの負担は少なくありません

参加者全員ができるだけ多くの成長点を得る。それが『AR2E』における勝利である。そして、『AR2E』はそのように行動したセッションが面白く、そして楽しいものになるようにデザインされている。成長点を得るための項目に「セッションに最後まで参加した」「他のプレイヤーを助けるような発言や行動を行った」「セッションの進行を助けた」などがあるのもそのためだ。全参加者が協力したり、助け合ったりすることで多くの成長点を得る――これを『AR2E』のセッションの目的として、プレイして欲しい。(ゴールデンルール)

対する「ゴールデンルール」では、プレイヤーに「できるだけ多くの成長点を得る」ように行動させることで、シナリオ進行の停滞を防ごうとします。何が勝利か、何が面白いことかを明示すれば、それ以外は敗北でつまらないこととなります。プレイヤー間の同調圧力に助けられながら、ゲームマスターはシナリオ進行に集中できるのです。強権発動はシナリオの都合にルールシステムを合わせる時だけで済むので、ゲームマスターの負担は軽減されます

以上、「最初に憶える大切なルール」と「ゴールデンルール」とを比較しました。比較とは、単に優劣を競うのではなく、その特徴を見極めるためにすることです。そして、どちらを用いるか、どちらが自分にとって適しているか、を選ぶために。

「ゴールデンルール」にするか、「最初に憶える大切なルール」にするか、それら以外の「遊び方」を選ぶか。それは遊び手の「自由」、つまり「自分で決めること」です。