システムピラミッド (1997年執筆)

本論考は、1997年7月18日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。ちなみに、「各論」は結局書きませんでした。

RPGデザイン考序説

はじめに

卓上RPGを創作する時に最も重要な事とは何でしょうか。

私はそのゲームシステムに含まれる諸要素が統合されている事だと考えます。

本項目「創」でRPGのデザインについて考えるに先立って序説として記す以下の文は、RPGの中に含まれる諸要素を整理するとともに、どのように統合されるべきかという私の考えを表明するものです。

システム

まずRPGの諸要素の連なり全体を「ゲームシステム」または「(広義の)システム」の名で呼ぶ事とします。「ルール」の部分のみを指して「(ルール)システム」と称する例もありますが、こちらは単に「ルール」と呼ぶ事にします。

RPGの「システム」全体を見る際に考慮に入れねばならない諸要素は、広い範囲にわたります。それらを六段階に分け、相互関係に基づいて並べたのが次の表です。

□□□□□□■□□□□□□←最上層 : プレイ
□□□□□■■■□□□□□←第五層 : キャラクター
□□□□■■■■■□□□□←第四層 : シナリオ
□□□■■■■■■■□□□←第三層 : 世界設定
□□■■■■■■■■■□□←第二層 : ルール
□■■■■■■■■■■■□←第一層 : 世界観

この六段階を、六層のピラミッドに見立てたのが、「システムピラミッド」です。またこれは、システム全体のデザインをピラミッドの建造になぞらえて説明するものでもあります。

最下層の「世界観」から最上層の「プレイ」に至るまでの各要素の間には、次の二通りの関係のいずれかが働きます。

  • 上層(の要素)は、下層(の要素)に従って構築される。
  • 下層(の要素)は、上層(の要素)を前提に構築される。

この相互関係は、ピラミッドの各層のバランスを表していると考えて下さい。各層を各々勝手に作ってから積み上げても、ピラミッドの形にはなりません。まず全体像を設計し、各層のバランスを取りながら、下層から順に一層ずつ積み上げていかねばなりません。

以下に、ピラミッドの各層が表すものについて、下層(第一層)から順に説明します。

第一層 : 世界観

システムピラミッドの最下層であり、全ての土台となるのが「世界観」です。「デザイン・コンセプト」といっても良いでしょう。デザイナーがそのゲーム世界をどのようなものに構築していくかの基礎概念です。

そのゲームの主題(テーマ)ももちろん含みますが、その中で、世界や社会あるいは人間存在などをどのように捉え表現するかという方法論の方がむしろ主体となります。

後者の例を幾つか挙げると、次の通りです。

  • 人間は無限に成長するか否か
  • 能力の本質とは、生来の才能か、それとも鍛練の結果か
  • 戦闘において生死を分ける最も重要な因子は何か
  • 人間の心はどのような要素から成立しているか
  • 社会が最も重要視するのは何か
  • 世界の存在には何か意味があるのか、など

これらの全てが必ずしもデザインにとって重要なものとは限りませんが、特に「ルール」の創作に対しては少なからず影響を与えます。

この段階の全部もしくは一部を意識的に設定せずとも、実際にはシステムのデザインは可能です。ただし、無視された部分が中途で必要となった時には、そのデザイナー本人の世界観・社会観・人生観が大抵無意識の内に適用されます。よほど厳重に注意しない限り、これは避けられない事です。

第二層 : ルール

「世界観」の上に成り立つのが「ルール」です。

「ルール」とは「事象の表現や結果を、どのような判断材料から、どのような手順で求め出すかを定めたもの」を指しますが、主として数値や賽子の目などを用いたものが定着しています。大別すると次の二種類があります。

  • 存在を表現するための「ルール」(能力値、技能、武器データ、など)
  • 事象の結果を求めるための「ルール」(行為判定、ダメージ判定、など)

ある事象に対する「ルール」は、デザイナーがその事象に対して想定した(あるいは元来持っている)考え(=世界観)に基づいて作成されます。

第三層 : 世界設定

「ルール」に則って、より具体的な「世界設定」が決定されます。

ジャンルにもよりますが、地勢、歴史、社会構造、生物や無生物のデータなどを「ルール」で定められた術語や数値などを用いて、またその範囲を逸脱しないように、具体的に決定します。

第四層 : シナリオ

「世界設定」で決められた設定やデータを基にして「シナリオ」が作られます。

「シナリオ」のデザインとは、詰まる所プレイの下準備です。あらかじめ何を決めておくかはマスター(もしくはシナリオデザイナー)次第ですが、設定される各事項は次の二つに分類されます。

  • 最初からプレイヤーと共有する部分(舞台となる時代と場所、周囲の状況、登場人物の一部、シナリオの傾向、など)
  • マスターの占有部分(当面の目的、最終目的、過去の事件、登場人物の真意、敵の正体、など)

前者はあらかじめプレイヤーが知っているべき情報です。プレイヤーにとって、プレイ前の覚悟や、次の「キャラクター」デザインのための手がかりとなります。

後者はプレイヤーにとって謎の情報であり、大抵はそのシナリオのプレイが終了するまでの間に徐々に明らかにされていくものです。

なお、キャンペーンの場合は、キャンペーン全体の構図がこの第四層に相当します。各シナリオは「キャラクター」の設定と各回の「プレイ」の結果に基づいて構築されていきます。

第五層 : キャラクター

「シナリオ」の阻害とならない範囲で自由に「キャラクター」が作成されます。

前項で述べた「シナリオ」の二種類の設定事項の前者が、「キャラクター」デザインの際に最初に参考とすべき手がかりとなります。舞台や社会情勢などはもちろんのこと、そこから読み取られたシナリオの雰囲気からも極力外れるべきではありません。もしどうしても問題がある場合は、キャラクターを作成する前に他の参加者と協議すべきでしょう。

最上層 : プレイ

実際のゲームプレイです。「キャラクター」の一つ一つの行動が「プレイ」となります。

これまでの各層はいわば設定事項でしたが、「プレイ」は能動的な「行動」であって、定まった形がありません。キャラクターがある瞬間にどのような行動をとるかは、その瞬間まで誰にも決めることはできないのです。

マスターにとってもプレイヤーにとっても「プレイ」(=行動)は自由なものですが、それに至るまでの段階(=第一層~第五層)を忘れてはなりません。これら前段階の内容が、プレイの枠を決めます。この暗黙の了解が、他人の集合である参加者同士のプレイが暴走する危険を抑える見えざる壁となります。

ピラミッドを築く順番

「世界観」を底辺とし、最上層の「プレイ」に至るシステムピラミッドを築くためには、まず六層全てを設計する必要があります。六層はすべて同じピラミッドを目標としていなければなりませんが、形を最初に決めるのはどの層でもかまいません。

上記にあるように、下層から上層を決めていく手順は次の通りです。

  1. 世界観に基づいてルールを決める。
  2. ルールに則って世界設定を決める。
  3. 世界設定を用いてシナリオを決める。
  4. シナリオを視野においてキャラクターを決める。
  5. キャラクターが行動してプレイとなる。

逆に、上層から先に決めて行く場合は次のような考え方をとります。

  1. やりたいプレイをできるようなキャラクターを想定する。
  2. やりたいキャラクターが活躍するようなシナリオを想定する。
  3. やりたいシナリオを作れるような世界設定を想定する。
  4. やりたい世界設定を可能とするルールを想定する。
  5. 使いたいルールの背景にある世界観を探る。

六層の内、最初に決めた層から、上に発展もしくは下を想定していくことで、全体像を決めることができます。どの層から始めるにせよ、まず全体像をつかみ、次には土台である「世界観」から順に具体化していくこととなります。

もしどこかに気に入らない部分があった場合は全体を見直さねばなりません。また、やりたいことが最初に二層にわたってあり、それらが矛盾する場合にはどちらかを捨てねばならないでしょう。

おわりに

これが、ゲームシステムのデザインを目的とした情報整理法として私が考案した「システムピラミッド」の構造です。今後、この「創」の項目でシステムの諸要素について考察していく際には、この六種類の分類ごとに論じていくこととします。

ちなみにこの案は、私自身の自作システムのデザイン作業の中から生まれたものです。その結果でもある私の自作システムについては、近い将来、別項目で発表していく予定です。

なお、出版されたゲームシステムで紙面に表れるのは、ほとんどの場合「ルール」と「世界設定」のみです。その「ルール」や「世界設定」を改変する際には「世界観」の把握が不可欠でしょうが、それは他の要素から類推することとなります。一部を改変することは、他の要素にも影響を及ぼします。下手な改変はピラミッド全体の形を崩す恐れがあるのです。

以上を序説とし、各論に移ります。

追記

このサイトにいつも有意義なご意見を頂戴しております佐々木康成さんは、「デザイナー原理主義」という論を展開なさっております。幾分か、拙論「システムピラミッド」と似た部分があるように思われますので、興味のある方は参考になさることをお勧めします。

(以上、1997年7月18日 ; 1997年7月20日一部改訂)