卓上RPGにおける「初心者」と「初級者」 (1998年執筆)

本論考は、1998年1月13日に発表されたものです。文中の趣旨が、現在の筆者の考察とは異なる場合もありますので、ご注意願います。

卓上RPGの遊び手の階級分け
あるいは、より"高度な"プレイへの目安を探るための一考察

はじめに

この論文の目的は、卓上RPGの遊び手を分類することにあります。遊び手全体を幾つかの段階に分け、自分がその内のいずれに属するかを明らかにするのです。これは、その世界における自分の立場を明らかにし、自分の現在の立場と今後の可能性を知ることが、より楽しいプレイを目指すための足場となると信じるからです。

拙論「卓上RPG六つの道」で私は卓上RPGの遊び手をその嗜好に基づいて分類することを試みましたが、今回は主に経験や腕前に基づいて分類を行います。ただし、卓上RPGを楽しむために要求される"技術"は各自の嗜好によって変化しうるものなので、以下の論を読む前に「卓上RPG六つの道」等を一読され、ご自身のプレイスタイルの再確認をされることをお勧めいたします。

さて、この論を展開するきっかけとなったのは、「初心者」という語の使い方への疑問でした。多用される「初心者」という一つの語に、異なる二つの意味が含まれていることに気付いたからです。以下の論で、それら二つの意味を、別の言葉、すなわち「初心者」と「初級者」という語で表現し、区別することを私は提案していく考えです。

初心者と経験者

卓上RPGの遊び手は、まず大きく二つに分類されます。それは、経験の多寡に基づく分類であり、「初心者」と「経験者」に分けられます。以下に各々について説明します。

(初心者とは)

初心者とは、卓上RPGのプレイ経験が少なく、その遊び方を把握していない段階の者を指します。その条件は以下の通りです。

  • 卓上RPGのプレイ回数が一回~数回と少ない。
  • 卓上RPGというゲームをどのように楽しめば良いか理解するに至っていない。
  • そのため「自分で自分のキャラクターの行動を決める」ことができない。

(経験者とは)

これに対する経験者とは、以下の条件を満たします。

  • 卓上RPGのプレイ回数が二回以上ある。
  • 卓上RPGの(自分なりの)楽しみ方を理解している。
  • 「自分で自分のキャラクターの行動を決める」ことがごく自然にできる。

両者を直接的に分けるのは、プレイ回数ではなく、「自分からプレイに参加することができるか否か」であることに注目して下さい。そして「参加」の可・不可を決めるのは、初回から数度のプレイ経験の中で、自分なりの「楽しみ方」をそこに見出すことが出来るか否かにかかっています。

重要なことは、自分の「楽しみ方」を数回の経験でそこに見出せない者は、大抵卓上RPGを止めてしまう、ということです。

初級者と中級者・上級者

卓上RPGの遊び手の内、経験者に属する者は、その"腕前"によって更に分類がされます。"腕前"とは、卓上RPGをより面白いものとしてプレイするために期待される能力の熟練度である、と考えて下さい。

用語としては「初級者」「中級者」「上級者」と言うような分類が出来ますが、能力の熟練度を厳密に階級分けすることは困難ですから、実際に「Aさんは初級者、Bさんは中級者」という様に使われることは勧められません。むしろ「私は今どの段階であるか」「次の段階に上がるにはどうすれば良いか」という現状認識・目標設定のためのものとして用いるべきでしょう。

それを目的として、無理に目安を付けるならば、次のようになります。

(初級者)

  • 自分の楽しみ方が何となく分かったが、それに確固たる自信はない。
  • 楽しみ方はある程度認識しているが、
  • それに必要な能力は分からない。その楽しみ方で「楽しむ」だけに夢中な段階。

(中級者)

  • 自分に向いている楽しみ方をはっきりと理解している。
  • その楽しみ方に必要な能力等を認識し、その研鑚に努めている。
  • その楽しみ方で「もっと楽しむ」ための努力を行っている段階。

(上級者)

  • 楽しみ方に必要な能力に習熟し、更なる研鑚に努めている。
  • その楽しみ方に関して、後進の者への適切なアドバイスの研究を行っている。
  • その楽しみ方で「皆で楽しむ」ための手法の研究に入った段階。

先にも触れましたが、ここで述べた「プレイに期待される能力」は、各自の「自分なりの楽しみ方」に基づいています。その者が卓上RPGにどのような面白さを求めるかによって、初級者から中・上級者を目指して鍛えるべき能力も、そのための研鑚の仕方も異なってきます。そのため、ある卓での「上級者」が、別の卓では「初級者」となる可能性もあります。

結論:初心者と初級者の違い

以上、「初心者」と「初級者」の各々について述べました。では「初心者」と「初級者」の間にはどのような関係があるのでしょうか?

「初心者」には"腕前"は関係ありません。何故なら、「初心者」とは卓上RPGの遊び方=楽しみ方を知らない段階にいる者のことであり、自分の能力を発揮するに至っていない段階を指しているからです。初心者には「初級」も「上級」もありません。

他方「初級者」という語は、遊び方・楽しみ方を知った者=「経験者」を分類する語の一つです。すでに楽しむために必要な能力をある程度認識しており、"腕前"を発揮しうる段階にいる者を指します。

「初心者」が指す対象と「初級者」のそれとは、まったく異なるのです。各々が指す者の間にあるのは、技術向上を含まない、時間的・経験的推移のみなのです。

最後の一文を補足しましょう。「初心者→経験者」また「初級者→中級者→上級者」という変化はありますが、「初心者→初級者→中級者→上級者」という成長過程は必ずしも成立しません。卓上RPGに要求される能力は、しばしば他の社会経験から習得されうるものであり、その遊び手のゲーム以外の経験次第では、「初心者」を脱した時点で既に「中級者」ないし「上級者」である場合もありえるためです。どう化けるか分からない「初心者」を、あたかも「初級者」のように扱うのは、この視点から考えても、色々な意味で問題があるわけです。

結論の後に来るもの:分類することの意義と効果

上記のように卓上RPGの遊び手を分類することの意義には、次の二つがあります。

  • 下位にある者が何を得れば上位を目指せるかを明らかにする。
  • 上位にある者が下位の者に対して何が出来るかを考える目安となる。

前者の具体的な内容は、先述の通り、その楽しみ方によって変化します。ご自身のプレイスタイルに適したものを研究し、見出していただかねばなりません。僭越ながら「卓上RPG六つの道」で挙げた「六つの楽しみ方」がその参考となりうると信じます。

後者は、すでに経験を積んだ者に、自分の段階と相手の段階を踏まえた上で、それに応じた「後進育成」ができるようにするための目安を提供するものです。次にその目安を記します。

(経験者が、初心者に対してできること)

その者に理解できる=その者に適した「楽しみ方」を見出せるようにすることです。そのためには、様々なプレイスタイルを紹介し、経験させることが必要となります。もし近くに自分と異なるスタイルの持ち主がいなければ、自分のそれと異なるスタイルをプレイしなければならないかもしれません。

(上級者・中級者が、初級者に対してできること)

自分の手法をアドバイスすることも大切ですが、参考になる資料などを示唆することがより重要です。ただ他人に教わるのではなく、自分なりの"学び方"を見つけることが、自分の遊び方・楽しみ方の再発見につながるからです。極論を言えば、まったく同じプレイスタイルの持ち主は二人といないのです。

「後進育成」は"腕前"に関わらず行うことができます。一歩でも先を行く者は皆、後から来るものに対してその義務を負っているのです。

最後に

"たかがゲーム"に上下関係を設けることに対しては反感があるかもしれません。しかし、次のように考えて下さい。

  • 経験者=卓上RPGの楽しみを知っている者
  • 上級者=卓上RPGをより多く(大きく・深く)楽しんでいる者
それに対して
  • 初心者=楽しみを知らない者
  • 初級者=少ない楽しみしか得ていない者

であると。

卓上RPGを遊ぶことによって楽しみが得られない者、あるいは得られる楽しみが少ない者は、他の娯楽を見つければRPGを止めてしまうでしょう。彼らの足を止める最良の方法は、卓上RPGの楽しみ方に、少しでも早く気付かせることであり、またより多くの楽しみの可能性を示すことです。そのための手助けは、その者よりも少しでも多くの経験があれば、誰にでも出来ることなのです。

上下関係は力関係ではありません。上位の者から学び、下位の者を助ける。そのための関係なのです。