論題「首ナイフ」の本質

いわゆる「首ナイフ」について、ツイッター上でも議論があったようです。その一部については、水無月冬弥さんが下記サイトにまとめておられます。

「首ナイフ」については私も、旧掲示板で議論を楽しませていただいたことがあります。懐かしさの勢いで、当時の書込をウェブページに編集しました。

その議論の中で、当時(2005年)の私は次のような書込をしています。

「首ナイフ」のように「参加者間で状況の解釈が分かれ、プレイの障害となりかねない」状況については、回転翼さんの仰る通り、必ずしも「唯一正しい回答」はありえません。シナリオ内の都合、そこに至るまでのプレイ展開、使用するゲームシステム、参加者の嗜好などによって、ゲームプレイの現場ごとに最善手が異なるためです。

# 例えば「プレイヤーはマスターの判断に従う」という期待が叶うか否かも、実際にはプレイヤー次第です。

かといって、そのような事例について各々が自分なりの考察を述べることが無意味ということはなく、次のような意義があります。

  1. 自分と同じ立場について、自分とは異なる考え方や説得法を知ることができる。
  2. 自分と反対の立場について、その背景となる考え方を知ることができる。
  3. 両者を折衷しうる考え方、どちらともまったく異なる考え方など、対立を生じさせないための発想を得ることができる。

自分の考え方しか知らなければそれを押し付けるばかりとなりがちですが、多様な発想を知っておけばそれを考慮した上で「首ナイフ」のような状況に臨むことができるわけです。正面から意見をぶつけ合うよりは、少なくともプレイへの支障を少なく済ませることができるでしょう。

加えて言うと、「首ナイフ」のような問題で本当に困るのは、プレイの成り行きで突発的にそれが起こる時です。シナリオ/ゲームマスターの想定外の場面は起こり得ないという遊び方もあるかも知れませんが、そうでない遊び方においては尚一層有意義であると考えます。

この見解は今でも変わっておりません。柔軟な発想力を得るために、誰もがこの思考実験に参加することをお勧めします。

さて、「首ナイフ」とは本質的に、「ゲームプレイにおいて、ゲーム中の状況とルールシステムとの間に矛盾がある場合、どのように対処するか」を問う論題です。その状況を処理するためのルールシステムが無いのではなく、対応するルールシステムはあるのだけれど状況と辻褄が合わない、ということが前提となります。

更に、解決方法を決めた後に問われる「裏の論点」もあります。「首ナイフ」は大抵「悪漢NPCが人質NPCに首ナイフ」という状況が示されますが、「NPCがPCに首ナイフ」「PCがNPCに首ナイフ」「PCがPCに首ナイフ」した場合でも同じ処理を行うのか、という問いかけです。

ところで昨今は「首ナイフ」に関して、FEAR社が示した「エキストラ」概念や「ゴールデンルール」が取り沙汰されているようです。

  • エキストラ」とは、プレイヤーやゲームマスターが任意に即死させられるNPCのことです。人質が「エキストラ」であれば、ルールシステム通りで人質を即死させられるわけですから、「首ナイフ」という論題そのものが成立しません。人質が「エキストラ」であればよい、とは、人質のヒットポイントが1であればよい、というのと同じことです。人質は「エキストラ」ではない、として考えなくてはなりません。
  • ゴールデンルール」とは、私が言うところの「遊び方」の一種です。これを用いれば、ゲームマスターが人質を即死させたければ「GMは(中略)存在するルールを適用しなくともよい」、即死させたくなければ「GMは可能な限り正しいルールで遊ぶ」こととなり、解決方法の一例となりえます。それに従えば良し、では、状況とルールとの矛盾について自分の頭で考える、という意義は失われますが。

なお、「ゴールデンルール」の問題点というか、その本音については、別途に論じる予定です。

「首ナイフ」と同等に良くできた思考実験として、他には「粉塵爆発」というのもあります。その「本質」は、「首ナイフ」のそれとは、もちろん異なりますけれども。