1920年代アメリカの「禁酒法」を解釈する

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「世界設定」について例示する題材の最後は、1920年代アメリカ特有の現象である「禁酒法」について考えてみます。まず恥を晒しますと、その字面などから私は「禁酒法」を次のような法律だろうと思っておりました(特徴A1~A5)。

A1、1920年に(何らかの事情で)制定された。
A2、飲酒や製造、販売など、酒に関するすべての行為を禁じた。
A3、もぐり酒場(Speak easy)がはびこり、実際には誰もが酒を飲んでいた。
A4、密造やもぐり酒場経営などを資金源としてギャングが強大化した。
A5、1933年に、おそらく皆に反対されて廃止された。

ところが改めて調べてみると、実態は次のようなものだったようです(特徴B1~B5)。

B1、19世紀初頭から禁酒運動が広がり、半分ほどの州で制定(最初はメーン州の1851年、マサチューセッツ州では1908年)、1920年の「(全国)禁酒法」はそれを拡大、徹底したものだった。
B2、工業用、医療用を除くアルコールの製造、販売、運搬を禁止した。ただし自家製果実酒は規制外、飲酒そのものも違法ではなかった。
B3、もぐり酒場が蔓延った。自家用の貯蔵が違法でなかったため、富裕層は制定前に買い溜めをした。
B4、隣国カナダからの密輸、また密造や密売がギャングの資金源となり、その勢力や抗争を激化させた。
B5、継続を望む世論は大きかったが、主に財政上の理由(1929年の大恐慌以後、酒税徴収を求めた)から1933年に廃止された。

私にとっては良い勉強になりましたが、ルールブックに詳しい説明が見当たらないのは、アメリカ人なら知っていて当然のことだからかも知れません。

言い訳を兼ねて言いますと、「格差」のところで述べたように、それが史実通りであるか否かはゲームプレイにおいて重要ではありません。前者(A1~A5)のように誤解があるものでも、あるいは「禁酒法が無かった1920年代アメリカ」ですら、遊び手同士で認識を共有していれば問題は生じません。逆に史実通りだとしてもそれが共有されていなければ、思わぬところでプレイの停滞を招く恐れがあります。大切なのは正しいか否かではなく、取捨選択の周知なのです。

さて、どちらの「禁酒法」であれ、私の解釈するところはあまり変わりません。「状況に応じて問題解決に利用する材料」というだけのことで、細部が違えば使い方も違ってくるというくらいです。加えて、金持ちがグラスを勧めて余裕やPCへの信頼感を演出するとか、一般市民すらギャングとが持ちつ持たれつの関係になっている点をシナリオに活かすなども可能でしょう。ニュアンスが解釈によって変化することもありますが。

その他にも、「酒すら自由に飲めない抑圧された社会」と解釈して、政府への反感と裏社会への親近感を基本とする遊び方もできましょう。FBIがしばしば邪魔者として登場するかも知れません。また「道徳的禁欲と不道徳な欲望の永劫の闘い」にクトゥルフ神話を重ね合わせる解釈も可能です。

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