殴り合う卓上RPG論

自分の正直な意見を示し、異なる意見と闘わせることが、「殴り合うコミュニケーション」です。「殴り合う人々」はそれを楽しみ、「殴り合わない人々」は忌避します。卓上RPGのような遊戯についてであっても、それは変わりません。卓上RPGに関する論考や議論などを巡って、「殴り合う人々」と「殴り合わない人々」との姿勢の違いは、三つの点で明確に表れます。

第一に、反省について。理論は、経験とその反省から生まれます。実践したことをよく反省し、良かったところ、悪かったところ、その改善案を見極めていきます。それらの蓄積を整理したものが理論であり、理論は更なる実践で検証され、うまくいかなければ、うまくいかなかった経験を加えて再整理したり、思い切って新しい体験に挑戦することもあります。自分ひとりでの反省は、自分自身と「殴り合う」ことに似ています。また、多人数で遊ぶ卓上RPGではゲームプレイ後の「反省会」が、仲間と「殴り合う」最善の場となります。より多くの楽しみを共に得るために正直な意見を互いにぶつけ合う「反省会」を、「殴り合う人々」はゲームプレイ本編と同じくらい楽しむことができます。意見対立を嫌う「殴り合わない人々」は、「反省会」も嫌います。互いを褒め称え合うだけなら良いのですが、万が一にも否定的意見が出るなら、それは耐え難いことだからです。

第二に、論考の公開について。ある程度検証された理論は、論考としてまとめられ、公の場に示されることが望まれます。自分自身や身近な人物との反省に引き続き、その他の人々とも「殴り合う」ためです。特にインターネットのように不特定多数の人々が往来する場での公開は、まったく異なる経験の持ち主からも意見を貰えますから、特に有益です。異なる理論同士を闘わせることは、互いが蓄積した体験を伝え合うことでもあります。だからといってゲームプレイ環境が変わるわけではありませんから、すべての論考が読者にとって有効とは限りませんが、視野が広がることは間違いありません。「殴り合わない人々」にとって、意見とはそれに同意する(と分かっている)相手にのみ明かされるべきものです。異論を持つ者が含まれるかもしれない不特定多数の人々の前で公開すれば、あってはならない意見対立が起こるであろうし、少なくとも「この世に自分と異なる意見がある」ことを見せつけられた「殴り合わない人々」の心が傷つくからです。

第三に、論者のアイデンティティについて。公開された論考などについて「殴り合う」なら、当然その相手が確認できなくてはなりません。最低限「どの相手から殴られたか」くらいは分からないと、周囲の他の者にも迷惑をかけます。目前に本人がいれば顔で判別できますが、インターネット上では論者ひとりひとりが固有の名前を持つことでアイデンティティを明らかにする必要があります。この名前は「本名」でも(匿名性の低い)「仮名」でも構いませんが、(匿名性の高い)「匿名」は避けられるべきです。アイデンティティを明確にすることの機能と責任を「殴り合う人々」は尊重しますが、「殴り合わない人々」は理解できないか、逃避を試みます。「殴り合わない人々」の中には、殴られるのは嫌いでも、一方的に殴るのは好きだという者がいます。そういう者は自分のアイデンティティを隠すために、次のような方法を取ります。

  • 「別名」を使うが、都合が悪くなると新しい「別名」に替えて、別人になりすます。
  • 複数の「別名」を同時に使い、意見を同じくする多数になりすます。都合が悪くなった「別名」は捨てる。
  • 複数人で同じ「別名」を共有することで、「不特定多数の人々」に同化する。
  • 名前の欄に明らかに名称ではない言葉を入れることで、「名乗る」という行為そのものを拒絶する。

「殴り合う人々」はよく反省し、そこから生まれた論考を公開し、アイデンティティを明確にすることでそれらを楽しみます。「殴り合わない人々」は、反省を嫌い、他人の論考をも厭い、常々アイデンティティを隠そうとします。ひとつひとつの論考について「殴り合う人々」同士は仲良く闘いますが、卓上RPG論のあり方全体において「殴り合う人々」と「殴り合わない人々」の姿勢は対極にあると言えます。

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