想定外を想定すること

先の論考「失敗か事故か、成り行きか」で触れた、「想定外を想定する」ということについて、具体例を幾つか挙げます。難しいことではありませんし、誰もがしばしば行っていることですが。

まずは語の定義を確認。「想定」とは、「仮に、こういう状況・条件であると、決めること」(三省堂新明解国語辞典第五版)です。仮に決められる状況・条件が何通りあったとしても、それ以外の状況・条件もまた常にあります。このような、想定されなかった状況・条件を「想定外」と呼ぶ、と考えて良いでしょう。

...ちなみに「想定外」という語は辞書には見当たらず、「想定」と「予想外」とを組み合わせた造語なのかも知れません。もちろん、「想定」と「予想」とでは意味が違いますけどね。

以下、1. 「想定」があり、2. 「想定外」があり、3. 「想定外の想定」をする、という事例を三つ挙げます。

  1. 6m未満の津波を「想定」して、それを防ぐ堤防を築いた。
  2. 6m以上の津波が堤防を越えてくることは、「想定外」である。
  3. 津波が堤防を越えた場合を「想定」し、設備の強度や配置を工夫する。
  1. 脇道から誰も飛び出さないと「想定」して、車を進めた。
  2. 脇道から誰かが飛び出してぶつかることは、「想定外」である。
  3. 飛び出した者とぶつかる場合を「想定」し、スピードを落としておく。
  1. 出席者を100名程と「想定」して、会場に150席用意した。
  2. 出席者が会場に150名以上集まることは、「想定外」である。
  3. 150席でも不足する場合を「想定」し、急遽追加できるよう根回しする。

更に加えて、同じような事例を卓上RPGについても三つ挙げます。ゲームマスター(シナリオデザイナー)の立場から二例、プレイヤーとしても一例。

  1. PCがある依頼を受けると「想定」して、シナリオを作った。
  2. PCが予期せぬ理由でその依頼を受けないことは、「想定外」である。
  3. 依頼を受けなかった場合を「想定」して、巻き込まれ型の導入を用意する。
  1. PCが全ての戦闘に勝つと「想定」して、シナリオを作った。
  2. PCがいずれかの戦闘で負けてしまうことは、「想定外」である。
  3. 負けた場合を「想定」して、敵に放置されるか連行されるか等を決めておく。
  1. PCが全ての戦闘に勝つと「想定」して、シナリオに挑んだ。
  2. PCがいずれかの戦闘で負けてしまうことは、「想定外」である。
  3. 負ける場合を「想定」して、逃走経路を確保し、降伏の交渉も心得ておく。

以上の六例について、「想定外」を「事故」と捉えるなら、「成功か事故か」は次のように分けられます。

  • 津波が6mを越えるのは(想定外の)「事故」、越えないのが(当たり前の)「成功」。
  • 飛び出した者とぶつかるのは(想定外の)「事故」、いないのが(当たり前の)「成功」。
  • 出席者が席より多いのは(想定外の)「事故」、少ないのが(当たり前の)「成功」。
  • PCが依頼を受けないのは(想定外の)「事故」、受けるのが(当たり前の)「成功」。
  • PCが戦闘に負けるのは(想定外の)「事故」、すべてに勝つのが(当たり前の)「成功」。
  • PCが戦闘に負けるのは(想定外の)「事故」、すべてに勝つのが(当たり前の)「成功」。

同じ六例で、「想定外を想定」し「成功か失敗か」を問うなら、例えば次のようになります。

  • 津波が何mであれ、設備に被害が無ければ「成功」、被害を受ければ「失敗」。
  • 飛び出した者がいたとして、ぶつからなければ「成功」、ぶつかれば「失敗」。
  • 出席者が何名であれ、全員に席を用意できれば「成功」、できなければ「失敗」。
  • 依頼でも巻き込まれでも、PCがシナリオに導入されれば「成功」、されなければ「失敗」。
  • 戦闘に負けたとして、シナリオをそれなりに展開できれば「成功」、できなければ「失敗」。
  • 戦闘で勝てそうにないとして、PCが死ななければ「成功」、死んだら「失敗」。

「成功か事故か」と「成功か失敗か」とでは、同じ「成功」という語でも、その意味するところが異なる、ということがお分かりいただけるでしょう。様々な行為のひとつひとつにどちらの姿勢で臨むか、は結局はその行為者次第です。

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